Nintendo Switchの『ARMS』はボクシングと野球を組み合わせたまったく新しい格闘ゲームだ

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ニンテンドースイッチ体験会行ってきました。1日目は何も遊べず悔しい思いをしたので、2日目は早朝から並んで、無事試遊できました。

試遊したのはスプラトゥーンでもゼルダでもなく、『ARMS』。ニンテンドースイッチを活用したゲームの2本柱「誰もが一緒に遊べるゲーム」「やりこみ度の高いゲーム」のうち後者を担うタイトルだ。



腕が伸びるキャラクターを操作して離れた所からパンチを撃ち合うボクシングのような対戦ゲーム。最初に見たときの印象は、「新しいし面白そうだけど、シンプルすぎて浅そう」で、ピンと来なかった。他の人も同じような感想だったのだろう。任天堂タイトルの中では最も人が少ないブースだった。
「腕が伸びる」というのは確かにちょっと地味かも
でも、動画見て、試遊して、また動画を見まくって、その後銭湯でゆっくり浸かってたところ、突然ひらめいて「すげえ! めっちゃ奥深い! 駆け引きアツそう! 早く対戦してみたい!」と思えるようになったのだ。銭湯すごい。


この記事では地味にスゴイ『ARMS』の、駆け引きの奥深さと面白さについて語らせて頂きたい。

なお、自分は『ARMS』をプレイしたとはいえ10分程度しか触れておらず、本記事の9割以上はプレイ動画を見て推測したものだ。ARMS動画の累計視聴時間は6時間を越えているが、結局は動画勢なので情報の正確さについては保証しかねる。

基本の駆け引き

グローブを付けたヒーローが1対1で戦う対戦アクションで、ジャンプ・ダッシュなどの各種移動と「左パンチ」「右パンチ」「投げ」「ガード」が可能。パンチは遠くまで伸びるので基本的にはある程度離れたまま戦う事になる。ゲーム性としては『バーチャロン』『ガンダムVS』シリーズに近い、格ゲーとシューティングの中間のようなゲームだ。

「打撃」「投げ」「ガード」のジャンケン

「ガードは打撃に勝つ」「打撃は投げに勝つ」「投げはガードに勝つ」という3すくみが『ARMS』にも搭載。『スト2』を筆頭に多くの格闘ゲームで採用されている駆け引きの仕組みだ。実際、「ガードして、相手の投げを誘って打撃で打ち落とす」といった場面が実際にあった。

ステップとパンチ打ち分け

相手のパンチは、ガードではなく移動して避けるのが基本となるようだ。パンチしている最中は動けないので、パンチを避けつつの反撃かなり有効だ。

ただし、このゲームは「パンチの軌道」を様々に変化させることができる。
上から見た図です
「左側を狙う」「右側を狙う」はもちろん、カーブをかけて「内側に曲がるパンチ」「外側に曲がるパンチ」を撃つこともできる。相手が避ける方向を予測してそこを狙えば、避けたつもりの相手にパンチをお見舞いしてやれる。
相手が右に避けるのを読んで右カーブ
「相手のパンチをステップでかわす」「相手のステップを読んでパンチを曲げる」相手の動きを見て先の行動を予測する。この読み合いとなるわけだ。

このあたりまでは、公式に解説されている分かりやすい部分だ。

2つグローブを同時に使うことで生まれる駆け引き

普通の対戦ゲームでは「攻撃→硬直→攻撃→硬直」という流れが基本だが、『ARMS』はそうではない。片方の腕を飛ばした後、もう片方の腕を好きなタイミングで飛ばせるのだ。時間差で飛ばすことはもちろん、両腕をほぼ同時に飛ばすことも可能。2連続でヒットさせればコンボになるのはもちろん、「1発目はオトリで、本命の2発目を逃げる先に置いておく」という使い方もできる。

例えば「片方を真正面に飛ばし、もう片方を右側に放つ」という撃ち方をすれば、相手は「その場にいても当たるし右側に避けても当たる」という状況を作ることができる。もし左側が壁ならば相手はダメージ必至だろう。
両腕を活用して逃げ道をふさぐ例

着地をめぐる攻防

パンチは左右に打ち分けたりカーブをかけたりできるが、それは水平方向のみで、例えば上方向に曲げたりということはできないようだ。だから、「相手のパンチをジャンプで避ける」が有効な回避手段となっている。先ほどの例でもジャンプを使えば脱出可能だ。

また、ステップの終わり際には硬直が発生するためそこを狙われると危険だ。しかしステップからジャンプに繋げることでステップ硬直を消してスムーズに動くことができる。ジャンプは非常に便利なアクションだ。

だが大きなデメリットもある。着地時の硬直だ。着地した時に一瞬だけ動けない時間が発生するので、そこを狙われるとダメージ必至だ。着地のスキを突かれないように空中ダッシュを使って着地のタイミングをずらす、着地前にパンチをして相手の意識を回避に向ける、などの工夫が必要となってくる。もちろん相手もそれを読んで対応してくるだろう。

この「ジャンプからの着地」をめぐる攻防は『ガンダムVS』シリーズのそれに近い。ただ、これも「相殺」のシステムによって駆け引きがプラスされている。

パンチの相殺

『ARMS』には、回避とガード以外に第三の防御手段が用意されている。それが「相殺」だ。パンチとパンチがぶつかりあうと相殺となり攻撃が打ち消される。それを利用して相手のパンチを打ち落とすことが可能となっている。

先ほど「ジャンプの着地時は隙になる」という話をした。また着地硬直中はガードもできないと予想される。しかしパンチを撃つことは可能なので、着地を狙った相手のパンチにこちらもパンチを合わせることで防御できるというわけだ。
動けないタイミングでも相殺で防御可能
逆に言えば、「攻撃中はグローブが手元にないため無防備になる」ということでもある。上の方で「パンチを2発使えば相手を追い詰められる」ということを書いたが、それをすると「防御に使える手がなくなってしまう」という危険性もはらんでいるわけだ。

相手の反撃に備えて片手を残しておくか? それとも2発とも飛ばしてしまうか? 攻撃重視かバランスか、あるいは撃たずに防御を重視する? 「拳が飛んでいく」ことで、攻撃と防御の比重変化がとても分かりやすく表現されている。

パンチの貫通とカウンター

なお、グローブの種類ごとに「重さ」が設定されている。重いグローブは軽いグローブを貫通するので、重量級キャラは力でゴリ押すことが可能となっている。
しかも重量グローブはサイズがデカい
では軽量級キャラは不利なだけなのか? もちろんそうではない。「パンチを受けると、今飛ばしている攻撃がキャンセルされる」というシステムがあるからだ。互いにパンチを撃ち合う。パンチが交差する。自分のパンチが先に当たる。すると、相手のパンチは途中で止まる。だから軽量級キャラは、ぶつけ合わずにパンチをすれ違わせてカウンターをお見舞いしてやるのが有効となるのだ。
これができるのもカーブ操作があるからこそ
猪突猛進に突進してくるパワー型、それに対するスピード&カウンター型。『はじめの一歩』の幕之内一歩や宮田一郎のような戦い方が実際にできるのだ。
『はじめの一歩』88巻より 宮田のカウンター

「相手のグローブを破壊する」という駆け引き

相手の体にパンチを当てるとダメージを与えることができるが、さらに「相手の構えているグローブに当たった場合」は、グローブにダメージを与えることができる。相手のパンチがグローブにあたると、そのグローブに黄色い警告表示が出る。この警告が出ている状態のときに再度パンチを受けると、グローブがはじき飛ばされてしまう。しばらく腕が使用不能となり、グローブを引きずってしまうためステップもジャンプできない。大ピンチだ。
右が警告状態、左がはじき飛ばされた状態
イメージとしては「体へのヒットが1ポイント」「グローブへのヒットは0.5ポイント」といった感じだろう。柔道の「一本」と「技あり」の関係にとても近い。

警告状態は行動不能にリーチがかかった状態なので、その腕をかばいながら戦う必要が出てくる。警告状態を与えた側は逆にチャンスとなるのでアグレッシブに接近してプレッシャーを与えることができる。警告状態の付与で有利不利が変化し、そこで駆け引きに変化が生じる。

警告状態はしばらく経てば回復する。これも『はじめの一歩』などのボクシング漫画にある「このラウンドは回復に専念するんだ!」「次のラウンドはマットに沈めてこい!」といったチャンスとピンチがルールで再現されているというわけだ。

パンチの軌道で相手を誘導するテクニック

パンチを敵の体に当てればダメージを与えられる。グローブに当たれば立ち回りが有利になる。できれば直接体にぶちこんでやりたいが、このゲームは弾速が遅めなので、馬鹿正直にど真ん中を狙っても簡単に避けられてしまう。避ける方向を予測して左右を狙っても、それも見てから反応できるので当たらないだろう。

では、上級者はどうやって攻撃するのだろうか?

…と考えたときに、ふと「野球」を思い出したのだ。野球のピッチングにはストライクゾーンの概念があり、ギリギリを狙うことでストライクかボールかの判断を迫る。それをさらに分かりづらくするために変化球を駆使する。そして、『ARMS』のパンチにもまったく同じ仕組みがある。

つまり『ARMS』のパンチの左右撃ち分けとカーブは、ピッチングの駆け引きを再現したシステムなのだ。

ど真ん中めがけて撃ったら左に避けるか右に避けるか予測できない。では相手の右側ギリギリに撃ったら相手はどう対応するだろうか? つい左側に避けてしまうはずだ。それを見越して左側にもパンチを置いておけば確実にヒットする、というわけだ。パンチの微妙な角度でこのように相手を誘導することができるのだ。
①この軌道だと右に避けても当たりそうだ。左へ避けたくなるだろう
②絶妙な位置へパンチを撃つことで相手の行動が読みやすくなる

ど真ん中めがけて撃ったらどちらに避けるかわからない。それなら両方をふさいでしまう手もある。ど真ん中に向かって両手のパンチを撃つ。しかしそれぞれ左カーブと右カーブがかけられており途中で左右に分かれる、という撃ち方もアリだろう。左に避けても右に避けても当たる。相手の反射神経が良いほどひっかかりやすそうだ。

①正面に2発、と思わせておいて…
②残念! 動かないのが正解でした!
このように、上級プレイヤーはストライクゾーンギリギリの「当たりそうで当たらない」あるいは「当たらなそうで当たる」ギリギリのパンチを駆使して戦うのだ。

相手のパンチを「見切る」テクニック

逆に受ける側は、「当たるパンチ」と「当たらないパンチ」を見極めることでより有利となる。

パンチを避ける方法は「ステップ」「ジャンプ」以外に「歩き」がある。歩きは移動速度が遅いが、その代わり硬直などが一切ない。体の端を狙ったギリギリのパンチなら、歩いて回避すれば体制を崩すことなく回避できるというわけだ。相手の攻撃をよく見てギリギリで回避。これは『あしたのジョー』のラスト、ホセ・メンドーサが見せた「見切り」そのものだ。
『あしたのジョー2』第45話より
パンチの方向や軌道をアナログで変化させられる。それによりパンチの一発一発に、様々な意図を込めることができる。それが複数、かつ相互に飛び交う。自分は『ARMS』を、「バーチャロンやガンダムVSをシンプル化したもの」だと思っていたが、ここに気付いた瞬間「なんて奥深いゲームなんだ!」と目から鱗が落ちた。

そして、この奥深さを実現するための「左右の微妙な撃ち分け」と「変化球の向きと変化量」の入力を、直感的に行えるのが「ジョイコンを両手に持って手を振る」スタイルだ。ジャイロセンサー付きのコントローラが最初から2つ付属しているニンテンドースイッチでなければ実現しえないゲームデザインなのだ。
ボタンとスティックの操作も可能と発表されているがとあるが、そしたらスティックが3本必要になるのでは…?



いかがだっただろうか。『ARMS』の駆け引きの奥深さと面白さが少しでも伝わっていたら幸いだ。ほかにもキャラごとの特殊能力やグローブ選択の面白さ、チャージシステムとチャージを活かしたコンボなど語りたいことは沢山あるが、一旦はここで終わりとしたい。

『ARMS』は、おそらく初心者から超上級者まで駆け引きを楽しめるゲームなのだと思った。初心者は一見して分かりやすい「打撃・投げ・ガードのジャンケン」と「よける方向を読んで当てる」の駆け引きを、中級者は「着地狩り」「パンチの相殺」を、上級者は「グローブの削り合い」「ストライクゾーンギリギリ」「見切り」を楽しめる。幅広い層が楽しめるようにデザインされている。

既存の対戦ゲームの要素をアレンジし、さらに柔道や野球のスポーツ要素を駆け引きに織り込んだハイブリッドな駆け引き。『ARMS』はスプラトゥーンやスマブラと共に「任天堂の優れたeスポーツ」として広く普及するであろう。

最後に、現時点で一番レベルが高いであろうバトル動画を貼っておくので熱い対戦を是非ご覧頂きたく。





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1 件のコメント :

  1. とても面白い記事でした。
    対戦ものは苦手ですがプレイしてみたいなと思います。

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